むかしむかし、奈坪の森の奥深くに、
波一つ立たない静かな、丸池があったそうです。
その池の水は青黒く、とても不気味で、
村人からは「底なし沼」と呼ばれていました。
この頃、金吾という片目の男が居りました。
ある年の大水で、女房と娘を失い、
悲しみのあまり、仕事も手に付かず、
とうとう、丸池に身をなげて死んでしまいました。
そののち、この丸池では何故か、片目のウナギばかり獲れるようになりました。
ウナギを見た村人たちは、
「この沼のウナギは金吾の生まれかわりだ」
と、金吾を憐れみ、だれも丸池のウナギを獲ろうとしなくなりました。
それから幾十年が過ぎたころ。
金吾の悲しい話のことなどすっかり忘れ去られてしまいました。
ある日、この里に住んでいた彦五郎が、
丸池でウナギを沢山獲って帰ろうとしたところ、
「彦五郎~、彦五郎~」
と池から呼ぶ声がしました。
彦五郎は怖ろしくなり、その場から逃げ出しました。
逃げ出した彦五郎が、びくの中をみると、
沢山いたはずのウナギが、
何故か一匹も居なくなっていたそうです。