菊の香りの向こうに見える日だまりは、人懐(なつ)っこい感じがします。近くの山々は気持ち良さそうに転(うた)た寝(ね)をしているような晩秋の光の中を下田原の古刹(こさつ)慶雲禅寺を訪ねます。
本堂西側に地蔵堂があり、道路側へ進むと四体の石仏があります。一体は地蔵菩薩立像、他の三体は如意輪観音を本尊とする十九夜塔です。
十九夜塔は毎月十九日に集まり組織される、十九夜講の人々によって造立されたものが多く、如意輪観音を本尊としています。
女性を中心とする女人講で、大字・小字・組内を単位としています。安産や子育て、婦人病などの祈願が行われます。お勤めが終わると共同飲食や雑談など楽しい一時となります。
栃木県内では多く見ることができます。
慶雲寺境内の如意輪観音は、向かって右側から各碑の銘文は
(1)「享保十年二月十九日」(1725) 高さ140cm
(2)「當山現住 單宗東傳叟」
「千時 寛政元乙酉年」(1789) 高さ130cm
(3)「昭和三十三年一月」
「十九夜念佛供養塔」(1958) 高さ140cm
(4)地蔵菩薩立像で
「享保□年乙巳□二月」とあり(1)の如意輪観音と同時に造立された干支から推定されます。
享保(きょうほ)・寛政・昭和とそれぞれの時代に込めた祈りは、不変のものであったと思います。二十一世紀を目前にして「癒(いや)し」が話題になっていますが、この石仏の中に不変の癒しや思いがあり秋の日が過ぎてゆきます。
平成12年(2000)11月20日 第370号掲載