古田の中心部から少し北へ向かうと古田公民館があります。今回はこの公民館の玄関脇(わき)にひっそりと佇(たたず)む宝篋印塔(ほうきょういんとう)を訪ねます。
宝篋印塔とは宝篋印陀羅尼経を納める供養塔で、鎌倉時代中期から造立され、時代や地方によって変化していますが、全国各地に広く分布しています。
日本では本来の経典にこだわらず供養塔として定着しました。
古田の宝篋印塔には塔身部分に金剛界四方仏の種子、基礎部分には宝篋印陀羅尼経の一説が刻まれています。
「此經日若有 有情能於此 塔一香一華 禮拝供養八 十億劫生死 重罪一時滅 生免災殃死 生佛家 寛延三年天文 十月吉日 願主 勝寂」とあります。
この塔に線香や花を供え、礼拝供養すれば80億劫生死重罪(ごうしょうしじゅうざい)が一時に消え、生きている間は災難を免れ死後は仏の家に生まれる功徳が説かれています。
建立年については寛延3年天文(1750)10月吉日です。願主は勝寂という人で、当時古田にあった持明院の関係の方と推察できます。
相輪や笠の部分は一部欠損していますが保存状態は良好で、種子部には朱色が彩やかです。
種子部の内側は6cm四方の穴があり舎利(しゃり)容器を入れた所が、あります。宝篋印塔には珍しく種子部と塔身部は一本の石になっています。
江戸時代の地方仏教を知る貴重な歴史資料といえます。
以前は古田地内の共同墓地にあったものを盗難防止のために現在地に移動したとの地元の方の話です。
古田の宝篋印塔は大切に守られ、伝えられて現在に至っています。大切に次の世代へ伝えたいと願いました。
高さ84cm 石造
平成8年(1996)6月20日 第317号掲載