豊熟の稲穂とすがすがしい秋風の中、西方寺から逆面(さかづら)の里へ向かう農道を平行するように、田原丘陵があります。その山裾に大きな藤の木が時を止めたようにあります。この木の根元近くに、ひっそりと苔(こけ)むした巨岩があります。今回はこの巨岩「磐座(いわくら)」を訪ねます。
古代日本の原始的神道の信仰の対象で、神を祀(まつ)るために神霊が宿ると考えられていたものがあります。現在各地に見られる様な神社建築が成立する以前には、神の「依代」として山・岩・石・樹木・滝・動物・御幣(ごへい)などがあり、随時神を招き降して祭祀を行いました。
磐座とは、これらの依代の中で特に岩石や石を指し、神が宿るにふさわしい自然石が選ばれて次第に神聖視されるようになりました。
さて、東組の磐座は、高さ約1メートル、幅約1.3メートルの巨岩で、周囲には石の祠(ほこら)や灯籠(とうろう)の残欠があり、昔は盛んに信仰されていたようです。
地元の方の話では、正月に、この磐座へ初詣でする時に、誰にも会うことなくお参りすると願いが叶うといわれているそうです。
時代と共に道陸神(どうろくじん)と呼ばれていたこともあったようです。
遠い神代の昔から、私たち日本人は自然を敬い、大切にして暮らして来ました。私たちの生活は大きな自然の中の一部だと改めて思い、環境の大切さを感じました。
平成8年(1996)9月20日 第320号掲載